心臓血管外科

診療・各部門

心臓血管外科

診療概要

2016年より新体制で再スタートしました。当院は山口県東部の中核病院として年間160−170件程度の心臓大動脈手術を行っています。日本心臓血管外科専門医認定機構基幹施設であり、主に冠動脈バイパス術、大動脈弁置換術、僧帽弁形成術、メイズ手術、胸部大動脈人工血管置換術などの標準術式だけでなく、大動脈弁形成術(自己弁温存基部置換術を含む)などの手術も行なっております。また胸骨切開を行わない低侵襲心臓手術(MICS: Minimally invasive cardiac surgery)や胸部及び腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療にも力を入れています。一人一人の患者様にあった治療方針を綿密に計画し、患者様とご家族が納得された上での最適な手術の提供を心掛けています。

年次推移

診療方針

冠動脈疾患

心臓に血液を送る冠動脈が狭窄または閉塞し、心臓が虚血状態に陥っている状態です。いわゆる狭心症や心筋梗塞などで、カテーテル治療が困難な患者様に対して冠動脈バイパス術を行っています。冠動脈バイパス術には人工心肺を使用し心停止下に行う方法(conventional CABG)、人工心肺を使用し心拍動下に行う方法(on pump beating CABG)、人工心肺を使用せず心拍動下に行う方法(off pump CABG:OPCAB)の3通りの方法があります。当院ではOPCABを基本方針とし、患者様の負担軽減を心掛けています。また適応を慎重に検討した上で、胸骨切開を行わないMICS-CABGも行っております。

左冠動脈:高度狭窄
右冠動脈:完全閉塞
両側内胸動脈、大伏在静脈を用いて5枝バイパス

単独CAGB

弁膜症

心臓には4つの弁があり、弁膜が壊れてしまい、逆流防止弁としての本来の働きができなくなってしまう病気が心臓弁膜症です。弁の機能不全には、弁の動きが悪くなる狭窄症と、逆流が生じる閉鎖不全症の2種類があります。下記に代表的な弁膜症の治療方針を提示します。

大動脈弁狭窄症

大動脈弁(aortic valve stenosis: AS)は心臓の出口にある大動脈弁が石灰化などにより狭窄し、左心室からの血液の流出が妨げられ、圧格差が生じ心臓に負担のかかった状態です。主な症状は労作時の息切れ、動悸です。病態が進行すると胸痛、失神などを生じ、最終的には心不全、突然死を来す可能性があります。現時点ではASに対する有効な内科的治療は知られておらず、自覚症状が出た時点で外科的手術を考慮する必要があります。当院では適応を十分精査した上で一般的な胸骨正中切開で行う人工弁置換術と胸骨正中切開を伴わないMICS-AVRを行っています。

<正常大動脈弁>

<大動脈弁狭窄症>

人工弁

機械弁
生体弁
大動脈弁置換術(AVR)

単独CAGB

大動脈弁閉鎖不全症

大動脈弁閉鎖不全症(Aortic valve regurgitation: AR)は、心臓の出口である大動脈弁の閉まりが悪くなり、心臓から大動脈に押し出された血液が再び心臓内に逆流する病気です。押し出した血液が戻ってくるため心臓にとって大きな負担となり、罹患期間(りかんきかん)や重症度によって呼吸困難などの心不全症状が出現します。原因としては、動脈硬化や感染性心内膜炎などによる弁の破壊や、大動脈の拡大によるものがあります。大動脈弁閉鎖不全症の治療には、内科治療と外科手術があります。 軽度あるいは中程度の大動脈弁閉鎖不全症の場合は、内科治療が中心となりますが、症状がある場合は手術が必要です。当院では大動脈弁閉鎖不全症の外科治療として人工弁置換術を標準術式としています。弁尖の変性が強くない症例には大動脈弁形成術も行っています。また大動脈基部の拡大など弁尖の異常がない場合は自己弁温存基部置換術(David手術、Yacoub手術、Florida sleeve法など)も行っています。

<大動脈弁形成>

自己心膜による弁尖拡大とFlorida sleeve法による大動脈弁形成

<自己弁温存基部置換術>

David手術

僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁は左心房と左心室との間に位置する逆流防止弁で、腱索という紐状のもので左心室と繋がり、左心室が収縮する時に閉鎖するようになっています。この腱索が切れたり、伸びたり、縮んだりすることにより、弁が合わされなくなり逆流が起こるのが僧帽弁閉鎖不全症という病気です。原因としては加齢による弁の変性、心筋梗塞や不整脈による心臓の拡大、感染、外傷などが挙げられます。症状は労作時の息切れ、呼吸苦、全身倦怠感、動機などで、放置すると心房細動などの不整脈が出現したり、また心不全に陥いることもあります。治療法としては内服薬や点滴等による内科的治療と外科治療に分けられます。近年は中等度以上の逆流が生じた場合、自覚症状が出現する前に手術を行ったほうが、長期寿命が期待できると報告されています。当院では僧帽弁閉鎖不全症に対する外科治療として僧帽弁形成術を第一選択としています。感染性心内膜炎などで弁が破壊されている場合は、生体弁や機械弁を用いて僧帽弁置換術を行います。また適応を十分検討した上で、胸骨切開を行わない、MICS手術も行っています。

<胸腔鏡補助下僧帽弁形成術>

僧帽弁逸脱
人工腱索、弁縫縮、人工弁輪による僧帽弁形成術

僧帽弁形成術(MVP)

大動脈疾患

大動脈疾患は、大きく分けて血管径が拡大し破裂する可能性がある大動脈瘤と血管が裂ける大動脈解離があります。大動脈瘤の場合はほぼ症状はなく偶発的に発見さることがほとんどです。一旦破裂すると病院に到着するまでに死亡する可能性があるため、大動脈径が55mm以上に拡大している場合は手術が必要です。一方、大動脈解離の多くは、急激な胸背部痛を訴える場合が多く、解離した場所によっては緊急手術が必要となります。

胸部大動脈瘤

胸部大動脈は大動脈基部、上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈、胸腹部大動脈に分類されます。胸部大動脈瘤はどの部位でも55mmを越えると破裂や大動脈解離のリスクがあり、外科的手術を考慮します。当院では開胸人工心肺使用下に行う人工血管置換術と低侵襲な胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)を行っています。どちらもメリット、デメリットがありますので、年齢や動脈瘤の場所、形態に応じて綿密に術式を検討し、インフォームドコンセントを得た上で手術を行っています。

大動脈の直径 破裂率 解離頻度
4cm未満 0% 0%
4-5cm 0-1.4% 3-8.5%
5-6cm 4.3-16% 7.7-8.5%
6cm以上 10-19% 13-28.6%

<開胸、人工心肺使用、低体温循環停止、選択的脳灌流、心停止下に人工血管置換術>

遠位弓部大動脈瘤、最大短径:72mm、shaggy aorta isolation法でオープンステントを用いた上行弓部大動脈置換術

<胸部ステントグラフト内挿術>

胸部下行大動脈、囊状瘤
TEVAR、術後6日目に退院

<慢性B型解離性大動脈瘤に対するステントグラフト治療>

慢性B型解離、瘤径:63m
初回手術:
debranching TEVAR
二回目手術:
re-entry閉鎖
3回目手術後:
偽腔は完全に血栓化

腹部大動脈瘤

正常の腹部大動脈の径は約2cmですが、これがこぶ(瘤)状に拡大したものを腹部大動脈瘤と言います。腹部大動脈瘤は、通常は自覚症状がなく、病院で診察や検査を受けた際に偶発的に発見されることがほとんどです。腹部大動脈瘤の1年あたりの破裂率は下図の通りです。大動脈瘤の破裂は瘤径の拡大とともに上昇します。5cmを超えると破裂率が高くなるため、手術適応です。手術には従来から行われている、腹部を正中切開して人工血管に置換する方法と両鼠径を穿刺して、バネ付きの人工血管を大動脈内に留置する腹部ステントグラフト内挿術(EVAR)があります。当院ではどちらの手術も行っており、綿密に術式を検討し、患者様に最適な手術を提供するよう心掛けています。

動脈瘤の大きさ 1年間の破裂率
4cm以下 0%
4-5cm 0.5-5%
5-6cm 3-15%
6-7cm 10-20%
7cm以上 20-40%
傍腎動脈腹部大動脈瘤、
最大短径:70mm
Chimney EVAR、術後6日目に退院

ステントグラフト

MICS手術(低侵襲心臓手術):MINIMALLY INVASIVE CARDIAC SURGERY

通常の心臓手術は胸骨を縦に切開(胸骨正中切開)して行うため、胸の真ん中に20-30cm程度の傷が残りますが、MICS手術は胸骨を切らずに肋骨の間から手術を行います。そのため手術による傷口が小さく、体への負担を減らすことができます。また通常の胸骨正中切開では術後3ヶ月間は重労働や車の運転ができないなどの運動制限がありますが、MICS手術ではこのような運動制限をする必要がなく、退院後すぐに社会復帰できるというメリットがあります。

通常手術(胸骨正中切開)
MICS手術(肋間小開胸)
メリット デメリット
・出血が少ない
・縦隔炎のリスクが少ない
・在院日数が短い
・術後の運動制限がない
・早期社会復帰が可能
・手術視野が制限される
・手術時間が延長する

当院で行っているMICS手術

◇大動脈弁置換術(MICS-AVR)
◇僧帽弁形成術(MICS-MVP)
◇冠動脈バイパス術(MICS-CABG)

◇MICS-AVR

6cmの小さい傷で行うため、運動制限がなく早期社会復帰が可能です。胸骨部分切開、傍胸骨アプローチ、右前側方アプローチなどの方法で大動脈弁置換術を行います。

傍胸骨アプローチ、6cm
右前側方アプローチ、6cm

◇MICS-MVP

6cmの小さい傷で行う体の負担の少ない僧帽弁形成術です。

右前側方アプローチ、6cm

◇MICS-CABG

胸骨を切ることなく、心臓の血管に数カ所のバイパス術を行います。

左第5肋間開胸、10cm
胸腔鏡補助下右内胸動脈剥離
両側内胸動脈を用いて2枝バイパス

MICS手術

主任部長
池永 茂

平成9年卒
資格:日本外科学会認定医/専門医/指導医、心臓血管外科専門医/修練指導医、胸部ステントグラフト実施医/指導医、腹部ステントグラフト実施医/指導医

所属学会:日本外科学会、日本胸部外科学会、日本心臓血管外科学会、アジア心臓血管胸部外科学会、冠動脈外科学会

医長
松野 祐太朗

平成25年卒
資格:日本外科学会外科専門医

所属学会:日本外科学会

月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日
午前 池永 茂 松野 祐太朗
池永 茂
午後

完全胸腔鏡下による左心耳切除・肺静脈隔離術(ウルフ・オオツカ手術)

心房細動に対する新しい低侵襲アプローチである、ウルフ・オオツカ手術が徳山中央病院でも受けられるようになりました。この手術は5mmから10mm程度の4箇所の傷(ポート)だけで完全胸腔鏡下に左心耳を閉鎖します。

● 心房細動とは

人口の高齢化に伴い、心房細動の患者様の数は年々増加し、日本では100万人以上とも言われています。心房細動は危険な不整脈で、頻脈や徐脈などにより心不全を起こしたり、前触れもなく脳梗塞などの塞栓症を起こす可能性があります。そのため心房細動を発症した患者様には血栓予防のために抗凝固薬を内服する治療が行われています。

● このような症状でお困りではありませんか?

①出血などで抗凝固療法が困難
②抗凝固療法を行っていたのに脳梗塞を発症した
③高齢で薬を飲み忘れる
④カテーテルアブレーションを行ったが再発した

心房細動を有する患者において左心耳が血栓形成の好発部位であり、心房細動患者の脳梗塞の原因の90%が左心耳内の血栓とされています。この手術の開発者である大塚博士のデータによると左心耳切除を行われた心房細動の患者さんは、抗凝固療法を中止後の脳梗塞発症率は年間0.25-0.5%とされています。併せて外科的なアブレーションも同時行うこともできます。出血のリスク等の副作用、高齢・認知症、腎機能障害などの医学的理由や社会的・経済的理由から抗凝固療法継続が困難な心房細動患者にはとても有用な手術であると考えております。

● ウルフ・オオツカ手術のメリット

・患者さんの負担が少ない(低侵襲)−胸腔鏡で傷も小さく、人工心肺を使用しません
・脳梗塞の予防効果が高い−確実に左心耳を閉鎖します
・抗凝固療法を中止できる−出血でお困りの患者様に効果的です

心房細動に対するウルフ・オオツカ手術の導入について

医療関係者 各位

地域医療推進機構 徳山中央病院
心臓血管外科
主任部長 池永 茂

 謹啓、時下ますますご清祥のことととお慶び申し上げます。
 平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて、この度心房細動に対する新しい低侵襲アプローチである、ウルフ・オオツカ手術(Wolf-Ohtsuka:WO手術)を徳山中央病院で開始しました。この手術は5mmから10mm程度の4箇所の傷(ポート)だけで完全胸腔鏡下に左心耳を閉鎖します。心臓内に異物も残らないため、術後に心房細動が持続しても抗凝固療法を中止できることが最大の利点です。
心房細動を有する患者において左心耳が血栓形成の好発部位であり、心房細動患者の脳梗塞の原因の90%が左心耳内の血栓とされています。この手術の開発者である大塚博士のデータによると左心耳切除を行われた心房細動の患者さんは、抗凝固療法を中止後の脳梗塞発症率は年間0.25-0.5%とされています。併せて外科的なアブレーションも同時行うこともできます。出血のリスク等の副作用、高齢・認知症、腎機能障害などの医学的理由や社会的・経済的理由から抗凝固療法継続が困難な心房細動患者にはとても有用な手術であると考えております。
ご質問、お問い合わせ等がありましたら、ご連絡いただければ幸甚です。

ウルフ・オオツカ手術の適応
・抗凝固療法を受けているが、出血・貧血などの副作用や高齢・認知症・腎機能障害などの
 医学的理由(あるいは社会的地位・経済的理由)により、有効な治療を継続するのが難し
 い方
・QOLが損なわれている/我慢を強いられている方
・脳梗塞予防のため抗凝固療法を受けていて(あるいは近い将来必要である)、アブレー
 ション治療の適応もある方

ウルフ・オオツカ手術のメリット
・低侵襲
・抗凝固療法を離脱できる
・高い脳梗塞予防効果

謹白

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